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「pixivはいつでも投稿画像をつかって画像生成AIサービスを作れる」は本当なのか

はじめに

昨今、画像生成AIとクリエイターとの間に緊張が高まっているように見受けられます。特にpixiv等の一部の画像投稿サイトにおいては、学習用データとして利用されることを避けるべく、ユーザーが掲載していた画像を非公開・削除する動きが見られます*1。その中で、一部から「pixivにこのまま自分の作品を残しておくと勝手にpixivが行う画像生成AIサービスのために使われてしまう」*2という懸念の声が上がっています。しかし、これは現状の規約に照らして正しいのでしょうか?

pixivの規約がどうなっているか

規約は、サービスを利用するにあたってユーザーとサービス提供側が交わした約束事(契約)ですので、ユーザーだけでなく、サービス提供側も規約に縛られることになります。

pixivの規約では、第21条において、ユーザーが投稿したイラスト(投稿情報)の権利が誰に帰属するか、pixivが投稿イラストをどのように使うことができるかということについて書かれています。

第21条 知的財産権の帰属及び使用許諾
2. 本サービスを利用して投稿等された投稿情報の知的財産権その他一切の権利は、当該投稿情報を創作したユーザーに帰属します。但し、明示的に定めがある場合は、ユーザーから当社に対して権利を譲渡していただく場合があります。3. ユーザーは、当社に対し、ユーザーの投稿情報について以下の利用行為等を許諾します。
    1. 当社および当社の許諾する第三者が、ユーザーの投稿情報を、本サービスの円滑な提供、利用促進、広告・宣伝、当社システムの構築、改良、メンテナンスに必要な範囲内で、無償かつ非独占的、永続的に使用、利用(利用目的に照らして必要な限度の改変を含みます。)および実施等をすること。例えば、当社はユーザーの投稿情報を本サービスの宣伝や紹介を目的として、TwitterFacebookInstagramなどのpixiv公式SNSアカウントや、当社の運営するwebサイト、または当社の作成する資料等に掲載・転載することができます。
    2. 当社が、pixivおよび個別サービス、ならびに当社提携サービスにおいて投稿情報が閲覧できるようにする機能を提供すること。投稿情報は、当該サービスで提供される表示形態に合わせ加工されることがあります。当社は、当該投稿情報を投稿したユーザーに対し、その投稿情報が当該サービスでどのように表示されるか確認できる手段と、それに対するお問い合わせ窓口を用意いたします。

まず、pixivにおいては、投稿したイラストの著作権はユーザーに保持されたままです(規約21条2項)*3

また、pixivは、サービス運営のために一定の範囲で画像を利用することをユーザーから許諾してもらっています(規約21条3項)。あまり意識していないかもしれませんが、pixivに利用登録をした時点で、著作権者であるユーザーは、規約に書いてある範囲の利用をpixivに「やっていいですよ」と許可しているわけです。

そして、ユーザーが許可を与えているのは以下の行為のみです*4

  1. pixivまたはpixivの下請企業が、pixivの円滑な提供・利用促進・広告宣伝、システムの構築・改良・メンテナンスのために必要な範囲で利用する(23条3項1号)
  2. pixiv・pixiv関連サービス・提携サービスにおいて投稿情報が閲覧できるようにする機能を提供するために利用する(23条3項2号)

上記のどの記述にも、「新機能である画像生成AIのために学習用データとして投稿画像を利用する」という利用態様は含まれないと考えるのが素直です。

そうすると、ユーザーは、pixivに対しては規約で書かれている以外の利用を許諾していない以上、画像生成AIの学習用データとしての利用は許諾していないということになります。

法律と規約どちらが優先するか(オーバーライド問題)

 「AIの学習に使うことは著作権法で認められているのに、約束事にすぎない規約によって制限されることなんかあるの?」と思う方がいらっしゃるかもしれませんので、少しだけ上記点について書きます。

 著作物は、一定の範囲であれば著作権者の許諾なしに利用することができます(権利制限規定)。私的複製(著作権法30条)とか、引用(著作権法32条)なんかがそうです。AIの学習に用いることも、この権利制限規定(著作権法30条の4第2号)で認められています。

 規約でAI学習を制限するということは、この法律を規約で上書き(override)することと同義ですが、現在のところは、権利制限規定の性質に応じて個別に考えようということになっております。そして、著作権法30条の4についてオーバーライドが認められるかについては確立した議論はないものの、私見としては、有効と考えても差し支えないように思います。

なお、オーバーライド問題に関する議論を追いたいという方は、私のボスが書いた

storialaw.jp

をご参照ください。

まとめ

  • pixivは今のところ画像生成AIを作る気はなさそう
  • 規約上も、画像生成AIの学習用データとして利用することは許容されていない可能性が高い
  • 著作権法との優劣関係が問題になるけど、規約が優先すると考えてよいのでは(私見

*1:イラストレーターたちがAI学習に抗議運動 pixiv上の作品を非公開に - KAI-YOU.net ただし、日本においては学習目的で著作物を利用することは完全に合法(著作権法30条の4第2号)であり、無断転載サイトを含めたpixiv以外のサイトから学習される可能性は残ります

*2:現時点においては、関連サービスであるpixivfanboxにおいてAI作品マネタイズを禁止する予定のようですので AI生成作品に対する、FANBOXにおける今後の対応|pixivFANBOX公式|pixivFANBOX、画像生成AIがpixivから出てくることはいったんなさそうです

*3:サービスの内容によっては、投稿情報の著作権がサービス側に渡るものもありますが、イラスト投稿サイトにおいては投稿イラストの著作権がサービス側に渡るというケースは少ないかと思われます

*4:一応、これが例示列挙だと考える余地もなくはないと思いますが、限定列挙であると考えるのが自然なように思います